「ふりかえる」中村静村
たちどまって
ふりかえることを おぼえた
おとしたものを
ゆびくって かぞえる くせが ついた
六十をこえた
ふかい秋の ひとりの野道
こわいほど わすれた
いままでの こと
なにひとつ
たしかには おもいだせず
あしあと さえ
さだかでは ない
あるいている はずの
いきている はずの
「はず」の わたしの あしをとらえ
ふと たちどまらせ
ふりかえらせているのは
なん なのか
おとした ものの おおさを
ゆびくらせているのは
なん なのか
ふかい秋の ひとりの野道
そよかぜより
もっと とおく
ふきすぎる こえを きいた
とらえようのない
せつない こえを きいた
詩「ふりかえる」中村静村
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